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川上正浩ブログ

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感想から考える(6)

 とある授業で,学生さんからこういう感想を頂いた。

 『「人間の行動のコントロール(制御)しているものが心」とありましたが,コントロールしているものが例えば他人からの評価だとしたら,その時の私の心は他人の評価,つまり自分の外にあるということなのでしょうか。』

 この辺り,実は,心理学の根幹とも言うべきところなので,かなり一生懸命答えた。
 ということで,ものすごく長くなるが,川上の回答を引用してみる。

 『これ,すごいおもしろいですよね。
 「人間の行動のコントロール(制御)しているものが心」,と聞いて,「じゃぁ...」と具体的に考えてくれてることがわかります。
 こういうのはすごく大事です。
 繰り返します。
 すごく大事です。
 高校までの先生ってね,正しいことを言っているって言う前提だったかもしれないけど,大学の先生ってそんなことないんですよ。
 それは,大学の先生がいい加減ということではなくて大学で教えているような内容と高校で教えている内容の違いということなんです。
 高校で教えられているような内容って,多くは正解が決まっていて,それを先生が教えてくれるわけです。
 なので,真っ当な先生だったら,正しいことしか言いません。
 だけど,大学で扱われているような事柄って,まだ正解がわかっていないことであったり,すごく複雑な社会について「どう考えるか?」ってことであったりして,必ずしも正解がないんですね。
 だから,大学では時として,先生が話すことって,正解と言うよりは,先生が考えていることであったりするわけです。
 もちろんね,たとえば心理学の中にも,正しいことと正しくないことはありますよ。
 「行動主義心理学というのを唱えたのは,ワトソンだ。」というのは正しくて,「行動主義心理学というのを唱えたのは,フロイトだ。」というのは間違いです。
 だけど,それこそ心理学とは何なのか,とか,心理学で何ができるか,とかのような大きな話は,先生個人の考えであったり,あるいは,世の中の心理学者と呼ばれる人たちの考えであったりして,「宇宙の真理」だったりはしない可能性の方が高いです。
 言い換えれば,それは,宇宙を眺める「視点」なのです。
 大学の授業で,皆さんがやるべきことは,自分の視点を身につけることです。
 だからこそ,いろんな学問を学んで,その学問が世の中を(まぁ宇宙でもいいんだけど,ちょっとスケールが大きすぎるので)眺める視点をいろいろ体験して,そのうえで,自分自身の視点を形作っていく,っていうのが学びなんです。
 だから,「人間の行動のコントロール(制御)しているものが心」,と聞いたときに,「そうなんですね。ではそれを覚えます。」も大事なんだけど,それを自分のものにするために,自分でそれを納得するまで考えるとか,疑問があればそれを先生にぶつける,とかそういうことをやるのはもっともっと大事だと思います。
 言い換えるとね,大学って,「自分がどう考えるのか」を育てていく場所なんです。誰かの考えを聴く必要があるのはそのためです。
 だからこそ,誰かの考えを聴く「だけ」ではだめで,それを自分なりに消化して,吸収し,自分の考え方を育てていくのが大事なんですよ。
 ということで,これ凄く良い問いだと思うんですけど皆さんはどう考えられますか?
 あ,ちょっと学びの話が長かったから,もう一回言っておくと,『「人間の行動のコントロール(制御)しているものが心 」とありましたが,コントロールしているものが例えば他人からの評価だとしたら,その時の私の心は他人の評価,つまり自分の外にあるということなのでしょうか。』ということについて,どう考えますか?ちょっと時間をとって,考えてから先に進んでください。
 考えていただきましたか?
 これね,実は他人からの評価は,人間の行動をコントロールしないんです。極端に言えば。
 え,そんなことないよ,って思いますよね。
 たとえば,今,まさにネット上の誹謗中傷によって,人の命が失われるという問題があったりして,そういうのって他人からの評価,というかコメントが原因じゃないのか!って思いますよね。
 でも,心理学者はこう考えるんです。他人からの評価が,人間の行動をコントロールするのではない。他人からの評価を,その人がどう「受け止めるか」が人間の行動をコントロールするのだ,と。
 わかりますか?
 まず,勘違いしないでいただきたいのは,だから,ネット上の誹謗中傷とかは悪くなくて,本人の弱さとかなんとかが原因なんだ,とかっていう話をしているのではないということです。
 ネット上の誹謗中傷には,明らかに責任があると川上は思います。
 だけれども,それを読んで,その意味を考え,それで傷つくのは,人間の中にある「心」なのです。
 だから,すごく乱暴に言えば,ネット上の誹謗中傷があっても,それを読もうとするかどうか,その意味をどう考えるか,それで傷つくのかどうか,それとどう向き合うのか,なんかは,みんな個人の「中で」起こっていることなんです。
 そして,心理学者はその,中で起こっていることに焦点を当て,それを「心」と呼んでいます。
 繰り返しますが,本人の心の問題なんだから,誹謗中傷しても問題ない,って話ではないです。
 他者を誹謗中傷する人,あるいは評価する人(そういう意味では,我々も皆さんを成績という基準で評価する立場にあるわけですが)は,相手の内部で,そうしたコントロールが起こるはずだということは理解する必要があると思います。
 それは,むしろ相手の内部で起こってることだからこそ,ちゃんと理解しないといけない。
 逆に言えば,「自分なら大丈夫だから」は理由にならないということです。
 相手がその誹謗中傷でどれだけ傷つくか,それは誹謗中傷する本人にはわかるはずがないのですから( だって本人じゃないから ),その辺りまできちんと想いを馳せて,発言というのはするべきだろうなと思います。
 誹謗中傷まで行かなくても,他者からの評価,たとえばお母さんに褒められる,とか,友達に服装がダサいと言われるとか,そういうことでも人の行動が変わるのは事実です。
 だけれども,それらは全部,その,他者からの評価の「受け止め方」によって,行動が変わるわけで,やっぱり行動を変えているのはあなたの内的な状態だ,ということになりますよね。
 わかっていただけましたか?
 またこの辺りの話は,この授業の底辺をずっと流れ続ける話だと思いますので,折に触れて話していけたらと思います。』

 というところである。
 当ブログで,授業の感想として取り上げているのは,複数の科目のものであって(だから,それぞれで似たようなことを言っているのは,対象が違うから,ということでご了解いただきたいが),そうした科目を跨いだ教育の中で,やはり「考える」ということを大事に大事にしているなぁというのは,自分で思うところである。
 言いたいことは,引用した,学生さんへのコメントで尽きているかと思うので,ここではこれ以上展開しない。
 いや,しかし,これってブログなの?って話ですけど。

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