読書を勧める(9)

 今回は少し学術的なお勧め本を。
 学術的と言っても,専門書ではない。
 専門書は往々にして「知識を蓄える」ことを目的としているが,個人的に考える「学術的な本」とは,「考え方をブラッシュアップする」ことを目的としている(もちろん単に「結果として」,という場合もあるが)ものである。
 ということで,本日のお勧め。
 
福岡伸一 著 「世界は分けてもわからない」 講談社現代新書
 
 この本がどのくらい売れているのかわからないので,わざわざここでお勧めする必要があるのかどうかわからないが,同じ著者の前著(だと思う)である「生物と無生物のあいだ」はベストセラーだったはずなので,ご存じの方も多いかもしれない。
 
 「生物と無生物のあいだ」もそうであったが,この人の文章を読んでいると,内容はきわめて理系的でありながら,ものすごく文系的な文章であると感じる。
 ちょっとうまいこと言えば「理系と文系のあいだ」という感じ。
 個人的には,学問領域についてはともかく,人間を文系・理系と区別すること自体をあまり好きではないので,こういう人の文章を読むと楽しくなる。
 
 さて,本書の内容についても少し触れておこう。
 まるで“ゲシュタルト心理学”の教科書のようなタイトルであるが,もちろんそういう本ではない。
 
 しかし,
 
「私たちは見ようと思うものしか見ることができない。そして見たと思っていることも,ある意味ですべてが空目なのである」(p.163)
 
というような文章に出会うと,それがまさに「認知心理学」の授業の中で自分が力説している内容そのものであることに驚かされる。
 
 自分なりに解釈すれば,この本は,人間の「認識のしかた」についての本である。
 もちろんいわゆる“専門的な”内容も随分と含まれているので,やや歯ごたえを感じる部分もあるかもしれないが,心理学を学ぶ学生さんにも,「認識のしかた」について捉え直す意味で,読んでもらえればと思う。
 著者の専門は分子生物学であり,心理学とは少し距離があるのかもしれないが,結局学問領域の違いというのは視点の違いに過ぎない。
 まさに「世界は分けないことにはわからない。しかし分けてもほんとうにわかったことにはならない。」(p.163)のである。
 
 あ,もう少しで「って話ですけど。」って付けるの忘れて終わるところだった,って話ですけど。

コメント (2)

死神:

川上先生が「認知心理学」の授業の中で力説していらっしゃる内容
そのものである,とわかった瞬間,死神は,今回の川上先生のお勧め
の本も読んでみたいと思いました(#^.^#)♪

                        川上先生のことが好きな死神より

川上:

ありがとうございます。
ブログにも書きましたが,「専門書」ではないですが,確かに
専門的な話もたくさん書いてあってめげてしまうこともあるかも
しれませんが,全体を通して,何かが掴み取れるはずです。
是非見つけて読んでみて下さい。

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